【書評】『GRIT やり抜く力』アンジェラ・ダックワース
◎(ちょっと前の)世界のベストセラー
帯に「最強・最速のメソッド!」って書いてありますが、はっきり言って書かれていることは「最速」からは程遠い内容です。
なぜかというと、タイトルにもあるように最後まで「やり抜く力」の大切さを謳っているからです。
小手先の技術や生まれ持った才能よりも、泥臭くても最後まで諦めずにやりきるということが何より大切ですよ、という本です。
だからこの本を読んだからといってすぐに結果が出るようになるというものではないです(まあそんな本無いですけどね実際)。
著者はペンシルベニア大学心理学教授で、2013年にマッカーサー賞を受賞しています。
アンジェラ・ダックワースさん
この賞は別名「天才賞」とも呼ばれ、アメリカではノーベル賞に匹敵する栄誉と言われているそうです。
内容は大きく3つのセクションから成っていて、その中でさらに13章に分かれています。
個人的な印象ですが、日本のビジネス書と比べて海外のビジネス書は、著者が実際に研究したり統計を取ったりインタビューしたりして、より説得力のある内容の本が多い気がします。
登場するアーティストやアスリートの言葉も、どこかからの引用ではなく著者が直接聞き出したものになっているので、それが他の本と一線を画す要因になっているのではないかなと思います。
◎個人的・内容の抜粋
①結局、やりきった者が勝つ(第1章)
アメリカのウエストポイント(米国陸軍士官学校)の訓練は苛烈を極め、入学者1200人のうち約240人が卒業までに辞めてしまうそうです。
著者の研究によると、辞めずに卒業を迎えた生徒に共通することは学力・体力・リーダーとしての評価ではなく「情熱」と「粘り強さ」=「やり抜く力」だったそうです(それらは著者が作成した「グリット・スケール」で測定する)。
また、公立の高校や営業職、陸軍特殊部隊でも同様の結果が出たと記されています。
必ずしも才能に優っている者が、最後に勝つとは限らないという結果が導き出されました。
②意図的な練習(第7章)
ある物事で成果を残すためには、練習時間は短いより長いに越したことはありません。
しかし、長時間の練習・長い職務経験にも関わらず大した成果を残せない人も世の中には多数存在します。
それを分けるものは単に費やした時間の「量」ではなく「質」が大きく関係してきます。
今や世界共通語となっているトヨタ自動車の「カイゼン」に見られるように、その時の練習・仕事から常にフィードバックを受けてより良い状態へ改良していく意識が必要なのです。
あのダルビッシュも「練習は嘘をつかないっていうけど、頭を使わないでやった練習は嘘つくよ。」なんて言ってましたね。
本当のエキスパートの練習は
1.今より少し高めの、困難な目標を設定する
↓
2.フィードバックを受け、改善点を探す
↓
3.ひたすら練習する
というパターンを繰り返すそうです。
そして、一見ただしんどいだけに思えるこのプロセスの中に「楽しさ」を見つけられることが、一流の証のようです。
③「やり抜く力」を伸ばす子育て(第10章)
子育てを成功させるには「厳しく育てる」のが正解か、それとも「優しく育てる」のが正解かということについて考察している章です。
それぞれのタイプの家族の例を挙げ、比較しています。
前者の親は、子供が1度始めたことは何がなんでもやり通すことを強制し、大学のフットボールチームで挫折した息子が家に帰りたいと言っても「そんな意気地なしは帰って来るな。」と言って帰らせない。
逆に後者のタイプの親は、娘の意志を尊重し、高校や中退やクラブ通い、そしてコメディアンの夢を追いかけることにもすぐに賛成し、「ダメならまた考えればいい。」という方針を持っていました。
果たして、どちらの子供が成功したでしょうか?
正解は「両方」です。
前者の息子スティーブは結果的にNFLの伝説的なクォーターバックとなり、後者の娘フランチェスカはイギリスで最も面白いコメディアンに選ばれました。
これは極端な例かもしれませんが、つまりこの2種類のタイプに甲乙はないということです。
そしてさらに重要なことは、この2つは決して相容れないものではなく、むしろどちらの両親も「反対のタイプの要素」も同時に持ち合わせていたということでしょう。
スティーブの親も、学校に行きたくないという息子の話にしっかりと耳を傾けるし、フランチェスカの親も理学療法のエクササイズは無理にでもやらせたと言います。
これは、両親の信念がブレたということではありません。
タイプは違えど、この両親に共通していることは「子供にとって正しいと思えることを貫く」姿勢です。
いわゆる「愛のムチ」というやつです。
そう、最も重要なことは、子供に対する「愛情」なのです。
◎まとめ
人生は、短距離走ではなく長距離走です。
今ダメだからといってすぐに諦めるのではなく、試行錯誤しながらも地道に進んでいくことが何よりも大切だということを教えられました。
「天才賞」を受賞した著者ですが、最後にこんなコメントを残しています(一部略)。
「天才」という言葉を「努力もせずに偉業を成し遂げること」と定義するなら、私は天才ではない。
しかし「天才」とは「自分の全存在をかけて、たゆまぬ努力によって卓越性を究めること」と定義するなら、私は天才だ。
そしてその覚悟があれば、あなたも天才なのだ。(第13章『最後に』)
0コメント